先日、新聞記事で「高齢者の自宅売却トラブル増」という記事を読みました。近年、高齢者をターゲットとした、悪質な不動産会社による自宅買取被害が増えています。そこで今回のテーマは、「悪徳不動産会社に注意!高齢者を自宅売却トラブルから守る方法」と題してお送りしていきます。被害にあわないために、これだけは知ってほしいという重要な知識をお伝えし、一人でも多くの高齢者を悪徳不動産会社から守る助けになれば幸いです。
なぜ、高齢者の自宅買取り被害がなくならないのか?
なぜ、悪徳な不動産会社による、高齢者の自宅買取り被害がなくならないのか?もちろん、高齢者の一人暮らしが増えており、誰にも相談できないままに被害にあってしまうということもあります。ご高齢で一人暮らしをされている方は、お金のことであったり、体のことであったり、さまざまな不安を抱えています。そこに悪質な不動産会社は入り込んできます。また、今回特にお伝えしたいのは、悪質な不動産会社が法律の抜け道をうまく利用し、自分たちは絶対に損をしない仕組みになっているということです。自宅を不動産会社に売却するという売買契約はどのような仕組みになっているのか、どうやって悪質な不動産会社から、高齢者を、自宅を守るのか見ながら、どうしたら高齢者の自宅買取被害を防げるのか考えていきましょう。
自宅を売却する契約にクーリング・オフは利用できません
みなさんは、クーリング・オフという制度をご存じでしょうか。聞いたことあるかと思いますが、簡単にクーリング・オフについてお伝えすると、契約の申し込みや契約の締結をした場合でも、一定の期間であれば無条件で契約の申し込みを撤回したり、契約を解除したりできるという制度です。
例えば、突然家に来た営業マンが、あなたの家に貴金属がありませんか?買取りますよと言われて、大切な指輪を売ってしまったとします。でもやっぱりやめたい。そんな時に利用できるのがクーリング・オフという制度です。このケースの場合、売ってしまった日を含めて8日以内に書面で通知すれば、無条件で解約することができ、指輪を取り戻すことができます。
では、もし家に突然、悪徳不動産会社がやってきて、自宅を売ってしまった場合はどうでしょうか?やっぱり売りたくない!と思った場合、きっと解約しようと考えると思います。ですが、自宅を不動産会社に売却した場合、それが突然の訪問での契約であっても、内容をよく理解しないままの契約であっても、指輪を売ってしまったときのように、クーリング・オフを利用して、自宅を取り戻すことはできないのです。ここが、高齢者の自宅買取被害の怖いところ、悪質な不動産会社が損をしない理由です。
ちなみに、すべての不動産取引で、このクーリング・オフが利用できないわけではありません。不動産取引におけるクーリング・オフについては、一定の条件のもと認められています。例えば、ある不動産会社がマンションを分譲しており、ただ見に行くだけのつもりが気持ちが盛り上がってしまいその場で売買契約を締結してしまったという場合、冷静になって考えてみるとやっぱり契約をやめたいと思ったら、このケースではクーリング・オフを利用することができます。しかし、このクーリング・オフ制度は、売主が不動産会社、買主が一般の方というケースを想定されて、一般消費者である買主を守るという制度になっています。そのため、自宅を不動産会社に売却してしまったという場合は、クーリング・オフの対象外となっているのです。
自宅を売却する売買契約を解除する方法
それでもやっぱり自宅を売りたくない、解約したい!という場合、どのような方法がとれるのでしょうか。まず解約をする場合は、売買契約にのっとって「手付解除」もしくは「違約解除」にて解約の手続きを進めることになります。ただし、この2つの方法で無事に解約できたとして、自宅は取り戻せますが、大切な老後資金を失うことになります。
では、事例を使って、この2つの方法を解説していきます。
【事例】一人暮らしのAさんの自宅に、突然不動産会社の営業マンが2人で訪ねてきて、自宅を売却しないかと言われました。営業マンは、連日自宅にやってきて朝から夜まで居座り、自宅を売っても入所できる施設を紹介する、この価格で買い取れるのは今だけだなどと言葉巧みに勧誘を続け、老後の生活費や一人で暮らしていくことに不安を感じていたAさんは、つい営業マンの言葉に乗ってしまい、自宅を2000万円で売却することを承諾し、営業マンの言われるがままに署名捺印をして、手付金200万円を受けとってしまいました。その後、冷静になって考えてみると、自分はまだ元気で、もう少しこの家に住みたいと考えなおし、契約を解除したいと思っています。
このようなケースの解約までの流れをパターン別にみていきます
パターン1 手付解除による解除
パターン1では手付解除をする方法を見てみましょう。手付解除とは、定められた期間内であれば、理由を問わず、買主は売主に対し、支払った手付金を放棄して、売主は手付金の倍額を買主に支払って契約を解除するというものです。倍額を支払ってと聞くと売主の方が不利なように聞こえますが、言い換えると売主は受け取っている手付金を買主に返すと同時に、手付金と同じ額を買主に払うということですので、売主からの解除も買主からの解除も、解除を申し出た側が失う金額は手付金の額となります。
では、具体的に事例で見てみましょう。売買契約書の中に、「手付解除の期限が契約の日から7日間」と規定されており、Aさんが解約をしたいと申し出たのは、契約から3日目と仮定します。この場合、手付解除の期間内ですので、Aさんは手付解除をすることができます。すでに、不動産会社から受け取った手付金200万円に同額の200万円をうわのせして、不動産会社に支払うことで解除を行います。不動産会社は、Aさんの自宅を買い取ることができませんでしたが、200万円のプラスに、Aさんは、200万円のマイナスとなります。
パターン2 違約解除による解除
パターン2では、違約解除をする方法を見て見ましょう。違約解除とは、何か契約違反があった場合に、相手方に違約金を支払って解除する方法です。手付解除経過後に、一方的な買主・売主の都合で、解除する場合もこの違約解除にあたります。そのため、この場合は、相手方に違約金を支払う必要があります。 違約金の額は、契約書で事前に定められているケースが一般的で、大体売買金額の10%だったり20%だったりという金額になります。
では、具体的に事例で見てみましょう。「Aさんは、色々と悩んだ結果、やはり解約をしたいと不動産会社に申し出ましたが、手付解除をできる期間は過ぎています。この場合、違約解除となり違約金の支払いが必要です。契約書を確認すると、違約金は売買代金の20%と規定されていたと仮定します。」手付解除の期間を過ぎていますので、Aさんは、不動産会社に違約金を支払う必要があります。今回の売買代金は2,000万円でしたので、違約金はその20%の400万円となります。やはり、不動産会社は、Aさんの自宅を買取ることができませんでしたが、400万円のプラスになり、Aさんはなんと400万円ものマイナスになります。
不動産会社は損をしない仕組みになっている
2つのパターンをみていただいてもわかるように、不動産会社は、契約が進めばAさんの自宅を買取ることができ、解除になっても大金が入る仕組みになっている一方でAさんは一度契約してしまうと、たとえ解除をして自宅を守ることができても大切な老後資金を失ってしまうのです。そもそも、不動産会社が解除の話に応じてくれないという悪質なケースもありますので、無傷で解約できる可能性はないと思っておいてください。錯誤や脅迫、意思能力を問題にして争うということも考えられますが、現実的にはハードルが高いのでここではこれらを被害回復の解決策としてはご紹介しません。もし、このような事例にあたる場合は、弁護士さんにおまかせして進めることになると思います。
このように一度契約してしまうと、被害の完全な回復はとても困難です。だからこそ、被害を未然に防ぐことがとても重要です。
ご高齢で一人暮らしをされている方は、お金のことであったり、体のことであったり、さまざまな不安を抱えています。そして、私が高齢者の方と接していて感じることは、お子さんに迷惑をかけたくないからと自分で抱え込んでしまったり、お子さんに迷惑かけたくないと相談した私にでさえ遠慮してしまうということがあるということです。こちらから、積極的にお話しをして初めてこんなことで困っていたんだ、不安を抱えていたんだとわかることもあります。
離れて暮らしている親御さんがいる方は、こまめに連絡を取って、親御さんがご相談できる機会を積極的に作ってください。また、定期的にご自宅を訪問するヘルパーさんやご近所の方なども、最近どうですかという声掛けや何か変わったことはないか、見慣れない名刺や書類がないかなどに注意していただき、気になることがあればそのままにせずにすぐ確認をしてください。
判断能力に不安がある場合は、後見制度の利用を検討しても良いと思います。また、後見制度の利用までの必要がない場合も見守り契約という方法をとることもできます。高齢者の方にかかわる一人一人が積極的につながりを持ちみんなで被害を防ぐことが大切です。
私も、行政書士として高齢者の方に見守り活動や相談に力を入れていきたいと思い、日々活動をしています。ご本人のお気持ちやご意向をご家族や周りの方のサポートし、お一人暮らしでも安心して暮らせる世の中にしていきたいですね。